言わずと知れた美術史の古典中の古典、E. H. ゴンブリッチ大先生による『美術の物語』です。ファイドン・ジャパンが最初にこの邦訳をだし、その時に、ハードカヴァー版と、このポケット版を出しました。その後、河出書房が版権を買い、引き続きハードカヴァー版を出していますが、その過程でなくなってしまったのが、このポケット版です。\r\rこのポケット版では、薄くて上質な紙が使われ、非常に丹精に活字が印刷され、図版は、本の後半にひとまとめにされています。その手に持った感触と触ったページの質感がとてもよく、個人的にはハードカバー版よりも好きです。\r\r2011年の初版で、写真をご覧になれば分かるように、ビニールのカバーがついたままで、未使用の状態で保管していたものです。ビニールのカバーには経年による若干のヨレやスレがありますが、本体はまっさらの状態。個人的にこの本が好きで何冊かストックを持っていたものの一冊です。\r\rあまり世間的には話題にならなかったようですが、このゴンブリッチの本の新訳は、非常によくできていて、なぜこれが翻訳界で話題にならなかったのか不思議なくらいの素晴らしい出来だと個人的には思います。漏れ聞くところによると、ファイドンはこの本の各国版を作る際に、訳者あとがきなどを一切加えさせないという方針だったようで、本書にも訳者による解説などがありません。おそらくそのために翻訳の世界で見逃されてきたのではないかと思っています。ちなみに8人の共訳で、その中には、ヘーゲルの翻訳者として有名な哲学者長谷川宏、あるいは日本美術史の知る人ぞ知る異才大西広の名も見えます。\r\r美術史的には、非西洋世界への目配りが少ないなど、現時点から見ると限界もありますが、西洋美術史への入門書と考えれば、いまだに、このゴンブリッチの著作を超えるものはない(情報量だけやたらに増えて、カタログ的になってしまった通史はありますが)と言っても過言ではありません。もはや、入手できなくなってしまったこのポケット版、内容もさることながら、物理的な本としても親しみが持てるものなので、お気づきの方も多いでしょうが、既に高値で取引されている一品。特にこのポケット版については、新品の状態での入手はほぼ不可能かと思います。